原状回復は「借りたときの状態に戻すこと」ではありません。ガイドラインは、借主が負担するのは通常の使用を超える損耗の復旧だけだと定義しています。経過年数の計算より先に、請求された項目がそもそも借主の負担かどうかを確かめることが大切です。
原状回復の定義
ガイドラインは建物の損耗等を次の3つに分けています(ガイドライン p.8 表1)。
- ①-A 建物・設備等の自然的な劣化・損耗等(経年変化)
- ①-B 賃借人の通常の使用により生ずる損耗等(通常損耗)
- ② 賃借人の故意・過失、善管注意義務違反、その他通常の使用を超えるような使用による損耗等
「原状回復とは、賃借人の居住、使用により発生した建物価値の減少のうち、賃借人の故意・過失、善管注意義務違反、その他通常の使用を超えるような使用による損耗・毀損を復旧すること」ガイドライン p.8 表2
経年変化と通常損耗の修繕費は賃料に含まれ、貸主の負担です。次の入居者のための設備の交換や化粧直しも貸主の負担とされています(ガイドライン p.8)。参考資料は民法621条も引用しており、同条は通常の使用及び収益によって生じた損耗と経年変化を借主の原状回復義務から除いています(参考資料 p.2)。
A・B・A(+B)・A(+G) の区分
ガイドラインは具体的な損耗を次のように分けています(ガイドライン p.11)。
| 区分 | 意味 | 負担 |
|---|---|---|
| A | 通常の住まい方、使い方をしていても発生すると考えられるもの | 貸主 |
| A(+G) | Aのうち、次の入居者確保のための化粧直しやグレードアップの要素があるもの | 貸主 |
| A(+B) | Aだが、その後の手入れ等借主の管理が悪く、損耗が発生・拡大したもの | 借主(経過年数を考える) |
| B | 借主の住まい方、使い方次第で発生したりしなかったりするもの | 借主(経過年数を考える) |
ガイドラインは、これらはあくまで一般的な例で、Aに当たるものでも損耗の程度によってはBに近いと判断されることもあるとしています(ガイドライン p.11)。
貸主負担と借主負担の例
ガイドラインの別表3(ガイドライン p.25)にある修繕分担表から抜き出しました。詳しい例と考え方は別表1(ガイドライン p.17~21)にあります。
| 部位 | 貸主の負担となるもの(例) | 借主の負担となるもの(例) |
|---|---|---|
| 床 | 次の入居者のための畳の裏返し・表替え/フローリングのワックスがけ/家具の設置による床・カーペットのへこみ、設置跡/日照や建物の欠陥による雨漏りでの畳の変色、フローリングの色落ち | 飲み物をこぼした後の手入れ不足によるカーペットのシミ・カビ/サビを放置した冷蔵庫下のサビ跡/引越作業で生じた引っかきキズ/不注意で雨が吹き込んだことなどによるフローリングの色落ち |
| 壁・天井 | テレビ・冷蔵庫等の後部壁面の黒ずみ(電気ヤケ)/ポスターや絵画の跡/画鋲・ピンの穴(下地ボードの張替えが不要な程度)/借主所有のエアコン設置によるビス穴/日照などによるクロスの変色 | 日常の清掃を怠った台所の油汚れ/結露を放置して拡大したカビ・シミ/エアコンの水漏れを放置した壁の腐食/タバコ等のヤニ・臭い/重量物用のくぎ穴・ネジ穴(下地ボードの張替えが必要な程度)/天井に直接つけた照明器具の跡/落書き等の故意による毀損 |
| 建具・柱 | 次の入居者のための網戸の張替え/地震で破損したガラス/構造により自然に発生した網入りガラスの亀裂 | 飼育ペットによる柱等のキズ・臭い/落書き等の故意による毀損 |
| 設備・その他 | 通常の清掃をしている場合の専門業者による全体のハウスクリーニング/エアコンの内部洗浄(喫煙等の臭いがない場合)/台所・トイレの消毒/次の入居者のための浴槽・風呂釜等の取替え/破損・紛失のない鍵の取替え/寿命による設備機器の故障 | 清掃・手入れを怠ったガスコンロ置き場・換気扇等の油汚れ、すす/清掃・手入れを怠った風呂・トイレ・洗面台の水垢、カビ/不適切な手入れや用法違反による設備の毀損/鍵の紛失または破損による取替え/戸建の庭に生い茂った雑草 |
借主の負担にならない損耗
ガイドラインは、地震などの不可抗力による損耗や、上の階の住人など借主と関係のない第三者がもたらした損耗は、借主が負担すべきものでないことは当然としています(ガイドライン p.8)。
善管注意義務と通知
借主は、社会通念上求められる程度の注意を払って部屋を使う義務(善管注意義務)を負います。通常の掃除を怠ってカビを生じさせた場合や、結露を放置してシミを作った場合は、この義務に違反したと考えられるとされています。設備が壊れたときは貸主に知らせる必要があり、知らせずに被害が広がると損害賠償を求められる可能性もあります(Q10、ガイドライン p.41)。
判断に迷ったら
同じ「クロスの汚れ」でも、原因と程度でAにもBにもなります。入居時と退去時の写真、立会いのときの記録があると、入居中に生じたものかどうかが明らかになり、トラブルを避けやすくなります(Q1、ガイドライン p.37)。借主の負担と考えられる項目だけを計算機に入れて、経過年数を当てはめてください。
このページの出典
- 国土交通省「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン(再改訂版)」平成23年8月、全文PDF mlit.go.jp/common/001016469.pdf(確認日 2026年10月31日)
- 国土交通省住宅局「『原状回復をめぐるトラブルとガイドライン』に関する参考資料」令和5年3月 mlit.go.jp/…/001611293.pdf(確認日 2026年10月31日)
- 国土交通省「『原状回復をめぐるトラブルとガイドライン』について」ガイドラインの案内ページ(確認日 2026年10月31日)